夕方になって、まだ蒸し暑さは残っているものの僕が歩いている川の土手にはちょっとかるい目の風が吹いていました。遠くにお日様が傾きかけているので西の空の方から何となくオレンジ色に染まっています。
ふと土手の下を見下ろすと太鼓を叩いている人がいます。白い濃口にさらしをまいて下ははんだこです。練習をしているのか真剣なんですがどことなくぎこちないです。
何人かのトッポイ感じのお兄さんがたも太鼓の横に置いているやぐらみたいな台の上に座って太鼓の練習を見守っていました。
僕は通りすがりでしたが祭りの準備の雰囲気もありのこのことやぐらの方に近づいて一緒に太鼓を眺めてましたが、太鼓をたたいているおじさんは何となく「勇吉」のリズムを織り込んでいるようです。自己流でしょうが、時々聞こえるのはまぎれもなく「勇吉」でした。
やぐらに座っている兄さんがたに、僕も叩いていいでしょうかと聞くと「ああいいのじゃない」というので、太鼓に近寄りました。練習をしているおじさんの下打ちをしてあげるつもりで、おじさんにあいさつしました。撥はありますかと聞くと2対ほど太鼓に結わいつけている紐に挟まっていました。
そのうち年季が入っていそうな方を取り上げましたが、その撥はビックリするほど軽くおまけに先端がボロボロでした。どれくらい軽いかというとまるで丸めた紙を持っているかのようでした。それでもう一対の方の撥を取り上げると、なんとそれは竹でした。しかも先端が細くて長くて、しなっていました。
こんな撥があるのかとおもいつつ仕方なくそれで叩くと、ガサガサいうだけで全く下打ちが叩けません。
「これ短く切っちゃっていいですか?」と尋ねたらおじさんも黙っているので、勝手にそこにあったのこぎりで短く切ってしまいました。少しは叩きやすくなりましたが、撥自体が軽くて突っ込みのある下打ちができません。
ま、でも仕方なく叩いてあげました。
気が付いたらすっかり夕方で、周りは宵宮のきれいな明かりで照らされています。太鼓を練習していたおじさんもいつのまにか人々が踊り、屋台がならんでる広場に行ったみたいです。ふと手元を見ると竹の撥は先っちょがばらばらになって筆のようになってました。
・・・ある夜そんな夢を見ました。